植物身辺帳

植物身辺帳

種植えて新芽出て伸び葉が茂り蕾が出来てついに花咲く

耳袋

 

とある処でご紹介を受けて、耳袋をアマゾンで買った。平凡社ライブラリーの装丁はよく出来ているとつくづく思う。 これは平ラのいつものヤツに、渡辺崋山の遊戯図、右に糸綴。ええなあ。 

耳袋 1 (平凡社ライブラリー340)

耳袋 1 (平凡社ライブラリー340)

 

この本は寛政の頃のお奉行さん、根岸鎮衛という人が集めたエピソードをまとめたもの。書きとどめて1袋に入れといたのを、って言っているので、カード使いであったのだろうと推察される。ここに序を引用さしてもらおう。

此耳嚢は、営中勤仕のいとま、古老の物語或は閑居へ訪来る人の雑談、耳にとどまりて面白きと思いし事ども、又は子弟の心得にもならんと思う事、書きとゞめて一嚢へ入れ置きしに、塵積り山とはなりぬ。つかね捨てんも本意なく、其実を拾い其葉を捨てんと、幾度か硯にむかい筆をとりけれど、官務のいといとまなきに校輯も等閑となりぬ。此双紙は、恐れ多くも、公の御事等をも載せぬれば、世の人に見すべきにもあらねど、聞きし儘にしるしぬ。市中の鄙語など誠に戯れ言なれど、是も聞きしまゝに洩らさず書綴りぬ。数多きうちには偽の言葉もありぬべけれど、語る人の偽は知らず、見聞きし事を有りの儘に記して、予が子弟に残し置きぬ。他門の見ん事はかたく禁しめぬれば、文章の拙きもまた取かざるべきにあらずと云爾。

東都 藤原守信自叙

収められたエピソードはそれぞれがそれぞれ立っていて、さながら石を集めた箱のような趣。

玉石の事

いつのころにやありし、長崎の町家の石ずえになしたる石より、たえず水気潤い出でしを唐人見て、右石を貰いたき由申しければ、仔細ある石ならんとその主人これを惜しみ、右石ずえをとりかえて取入れて見しに、とこしなえにうるおい水のいでけるにぞ、「これははたして石中に玉こそありなん」といろゝゝ評議して、打寄りつれゞゝにみがきとりけるに、誤って打ちわりぬ。その石中より水流れ出でて小魚いでけるが、たちまち死しければ取捨てゝ済ましぬ。その事、あとにてかの唐人聞きて、涙を流してこれを惜しみけるゆえ、くわしくたずねければ、「右は玉中に蟄せしものありて、右玉の損ぜざるようにしずかに磨き上げぬれば千金の器物なり。惜しむべし、ゝゝゝゞゝ。」といいしとなり。世に蟄竜などいえるたぐいもかゝる物なるべしと、かの地へ到りし者語りぬ。

こうやって残しておいてくれたことがすでにしてありがたいことであるよ。